第3回IIVクリエイターアワード受賞作品発表

ブルーブルーム

第3回IIVクリエイターアワード

コミック部門:該当作なし

この度は「第3回ⅡⅤクリエイターアワード」に
たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。
厳正なる選考を重ね、受賞作が決定致しました。
受賞作は期間限定で公開中です。
受賞者のコメントのほか、人気クリエイターの選考委員による
コメントも掲載しておりますのでお楽しみください。

第3回ⅡⅤクリエイターアワード特設サイトはこちら

最優秀賞&部門賞

小説 部門

最優秀賞/小説部門賞 『真っ白い殺人鬼』三輪・キャナウェイ

『真っ白い殺人鬼』作品ページ
<作品紹介>

ある高校に、時間を貯めて過去を変えることができるという
「秘密のアプリ」の噂が流れていた。
そんな秘密のアプリを手に入れてしまった吾妻結衣は、
唯一の親友である三宮春乃のために
時間を少しずつ貯めていた。
だが突如、春乃がこの世界から消失したのだ。
春乃のクラスでは誰も彼女のことを
覚えていないという。
突然の出来事に混乱する結衣だったが、
春乃のことを覚えているという
生徒「一条仁」と「雪月すみれ」を見つける。
結衣は二人を疑いながらも、
春乃が消えた原因とアプリの秘密を探ることに……。
これは歪んだ者と壊れた者と優しい者たちが奏で合う、
愛しい青春群像劇。

<受賞者コメント>

テーマが青春ということで、私自身が高校時代に書いていた今作を
数年ぶりに読み返してみたところ、何とも青臭く、拙い箇所が作品の細部に見られ、
「当時はこれで完璧と思っていたのか」と恥ずかしくなると同時に、
けれども、「当時はこんなことに悩んでいたのか」と
感慨深くなりました。
だからこそ、過去の自分と今の自分を比べたり、
過去の自分にかける言葉を考えてみたり、未来の自分が、
“過去”である今の自分を振り返ったりした時のことを
考えてしまいます。
しかしこの考える、というものを、
悩みと表現するべきか、
創作と表現したいのかは、
未熟な私にはまだわかりません。
これが終わりではなく、これからだと思って、
精進していきます。
最後にはなりましたが、
この度は本当にありがとうございました。

蒼山サグ
登場人物全員のバックボーンがしっかり描かれており、とても世界観に入り込みやすかったです。キャラづくりの上手さがとても好印象でした。わりとポジショニングが極端な人物が多い中、それぞれの個性がしっかりしていたのは素直にすごいなと。導入までのスピード感もよくグイグイ読ませるパワーもあります。一箇所、はたしてこれは実現可能なのだろうか、という意味で、非現実を取り入れた作品ながら気になってしまったところはありましたが、全体としてはカッチリまとまっていたと思います。オチまで含めて完成度の高い作品でした。
時雨沢恵一
ホラーは苦手ですが楽しかったです。章ごとに切り替わる一人称が、とても効果を発揮していると思います。あそこまでやっておいて、“なかったことにできる”設定も秀逸でした。ラスト、あそこまで行くまでの主人公を想像させる終わらせ方も、凄くよかったです。
成田良悟
この物語がハッピーエンドか否か、それは読者の想像力や倫理観、あるいはこれまで自分が体験してきた青春の質によって意見が分かれるかもしれません。最後にアプリを使った結果、使用者であるあの人物だけが全ての業を背負うわけですが、そこから先、たとえ狂気に満ちたものであろうとも、数多の罪をかさね、その罪すらも世界から消えた中で唯一自分の中に抱え続けた者がどのような青春を送るのか、果たして物語の中に出てこない『アプリの制作者達』はかの人物の行動をどう見るのか。この先の少年少女達の青春物語に思いを馳せる事で、青春小説として更なる完成を見せる作品と言えるかもしれません。

部門賞

小説 部門

小説部門賞 『ひび割れから漏れる』道具小路

<作品紹介>

雨空を見つめ、「雷に打たれたい」と
彼女はふと呟いた――
千歳藍子は一年を通して制服の下に
ハイネックのシャツを着ていて、
周囲から変わり者と言われる女子。
佐々木修司は、
そんな同じクラスの彼女が呟いた冗談のような一言が
気にかかり、
千歳に興味を持つようになっていく。
偶然、雨宿りで一緒になった彼女に懇願され、
作り始めることになってしまった
自由研究の「避雷針」。
佐々木の夏は、千歳との出会いによって
決して忘れられない稲妻のような
眩しく激しい青春の思い出となった。

<受賞者コメント>

選考に携わってくださったⅡⅤ編集部の皆様、先生方、誠にありがとうございました。
恋をしたり、友情を育んだり、部活に励んだり。
わかりやすくキラキラしている同級生たちを、
冷めたフリして横目に見ながら、
本当は羨ましいと思っていました。
自分に青春はない、
つまらんつまらんと過ごしていた学生時代。
ただ、ふと当時を思い返すと、毎日あんなに胸で痛んでいたひび割れが、
今ではすっかり完治している。
その時初めて、あの傷こそが自分にとっての青春で、
わかりにくくキラキラしていたのだと気づきました。
青春は誰にでもあって、あとから気づくもの。
その一瞬のきらめきは雷のようだと思って書きました。

蒼山サグ
ストーリーラインが完璧で、一瞬たりともダレることなく最後まで熱中して読むことができました。主人公とヒロインの造形もすばらしかったです。互いが感情を共有する流れもバッチリでどこにも非の打ち所がなかった。しっかりとテーマを設定し、それを描ききれているという意味で、選考作の中で頭抜けて完成度の高い小説だったと確信します。夏を切り取った描写力も見事で、個人的にはダントツの評点をつけるにふさわしいと思っています。
時雨沢恵一
伏線の張り方、タイトルの回収など、あらゆる点で完成度が高すぎて唸りました。経歴を見たらプロの方なんですね。ネタバレできないので具体的に凄く気に入った箇所が書けないのが辛いですが。
成田良悟
選考作品の中でもキャラクターへの感情移入も一入の作品だったと言えます。それだけに、逆に障害として立ちはだかるキャラへの感情に触れる機会が少なかった為、父親の行為や岸達の行為は物語が完結してもなお許しがたくあり、特に家族に嘘をついた主人公への罰として、主人公への叱責ではなく『大事な物を破壊する』という行為は読んでいて特に強い憤りを覚えるものでした。逆に言うと、それだけ感情移入できる作品でしたので、個人的にはカタルシスと納得感を得る為に父親視点の感情の流れ(恐らくあの流れだと、父親からすれば自分の息子が落雷で自殺しようとしたかのように見えたでしょう)が見えたり、岸達の視点で何か主人公達の変化を受けての変化などがあったりするとより私の好みではあります(やり過ぎると御都合主義とも受け取られるので、あくまで私個人の好みというだけです)。全体としては良く纏まっていて、もどかしい現実と青春の狭間でもがく子供達を真正面から描ききった力作だと思います。

部門賞

小説 部門

小説部門賞 『故郷(ふるさと)までのディスタンス ~Since 1998years~』古橋 智

<作品紹介>

日本も閉塞感に満ちていた一九九八年。
まるで世の中の下降気味ムードとシンクロするように、
ダメダメ上京青年の森沢和馬は、
大学を中退しドロップアウト。
実家の両親からの送金はストップされ、
経済的にも崖っぷちに立たされていた。
そんな中途半端な森沢の前に同じく
上京ボーイの伊達聡が現れる。
彼に「自分が勤める出版社が
新人の文学賞を開催するので
小説を書いてみないか?」と
持ちかけられ、
高校時代に小説家の真似事をしていた森沢は
再び夢を思い出し筆を執ることに……。

<受賞者コメント>

拝啓 今回は第3回ⅡⅤクリエイターアワード・小説部門賞という、
名誉ある賞を戴冠させていただき、
涙がちょちょぎれる思いでいっぱいです(昭和時代表現)。
自称・食えないモノ書きという立場ゆえに、
勝手に自分をニート状態に追い込んで、
無職でモノ書きしてマネーが発生せず、
令和時代飢餓死寸前だったので
感謝感激雨アラレの青天の霹靂でもありました(中年世代表現)。
作品としては20世紀末頃が舞台の青春小説ではありますが、
意外と古さは感じないのでは……と思うので
寛容な目で読んでやって下さい。敬具

蒼山サグ
文章に破綻はどこにもないし、むしろ痛快な語り口が非常に心地良かったです。ただ、登場人物のうち『誰のための、なんのための物語だったのか』という部分で読後に疑問を感じました。純文学エンタメを問わずその小説に込められた『テーマ性』という要素は欠かせないと思っているので、その部分が弱かったのが気になりました。また、ミレニアム周りという舞台における古典思考という、過去の二重構造になっている点も少し気になり、90年代感があまり活かせてない印象になったのもややもったいないと感じました。技巧的な意味ではすばらしくレベルが高いのですが、文章『コンテンツ』としての魅力という部分で少し評価が下がるというのが個人的な判断です。
時雨沢恵一
濃いキャラ達の織りなす、濃い文章でした。私小説なところがあるのでしょうか? 書き手の熱意が、ものすごく伝わってきました。個人的な感想ですが(それを言い出したらこのコメントは全てそうですが)、途中に胸を抉られるような下りがありました。
成田良悟
軽妙にして濃厚。コメディを思わせる洒脱と愛嬌に溢れながらも作者の知識に裏打ちされた語り口は、小劇場のコアな芝居と大作映画の外連味を併せ持つ独特な味わいを持っていて、地の文を読み上げるだけで気分が高揚しました。これは作者さんの才能かあるいは人生を積み上げた結果か、稀有な技能だと思います。時代を再現した街の風景、語られる文化、キャラクターの価値観などに包まれ、まるで20年前にタイムスリップするが如き不思議な感覚で、読んでいて誰かの私小説の中に入り込んだかのような生々しさを覚えました。まるでVRシステムを体験するが如き大変興味深く、また完成度の高い小説だったと思います。私自身がデビューしたての頃に抱いた青春とは何だったか、心を揺さぶられる作品でした。私の年齢だからこそクリティカルヒットしたのかもしれません。それ故に、読み手の年齢――あるいは(審査員の身でこんな事を言ってしまうのは如何なものかと思うのですが)応募する賞によってまた反応は大きく分かれるのではないでしょうか。

部門賞

イラスト 部門

イラスト部門賞 『廃墟遊園地の秘密基地』SOLL

『廃墟遊園地の秘密基地』SOLL
<受賞者コメント>

この度はイラスト部門賞に選んで頂き
誠にありがとうございます。
まさか自分の作品が選出されるとは思ってもみなかったので
未だに夢を見ているような気分です。
このような機会を頂けて、自分の作品に自信が持てたと同時に、
「これからも絵を描き続けたい!」
「より良い作品を創りたい」と
意欲が湧いてきました。
これからも精進を重ねていきます。
本当にありがとうございました。

慧子
一目見て一番に目を惹きました! 観覧車のゴンドラの一つが自分たちだけの秘密基地、すごく夢のある設定です…!! よく知っている遊園地のはずなのに、まるで本当の異世界のような空気感が表現できていて少し不気味な雰囲気を感じつつもとてもワクワクします。迫力ある構図に、彼女たちの明るい表情がよく映えてまぶしい…!! 今風のライティングも良いです! 是非とも彼女たちが青春を過ごした秘密基地を覗いて見たくなる、そんなイラストでした!!

部門賞

動画・音楽 部門

動画・音楽部門賞 『廃墟遊園地の秘密基地』SOLL

<受賞者コメント>

初めまして、るおーるおみと申します。
この度は「動画、音楽部門賞」を授与していただき、
誠にありがとうございます!
今回のテーマである「学園もの」を、自身の経験を取り入れつつ、
暗くも希望の見える構成で
制作させていただきました。
普段はイラストでの創作活動が多い中、
自分でも大きな試みであるアニメーションを、
この様な形で評価して頂ける事をとても嬉しく思っております!
まだまだ未熟者ですが、これからも経験を積み、
更に成長できる様努力していきたいと思います。
改めまして、この度は貴重な機会をいただき
誠にありがとうございました。

banvox
素晴らしい。
最初から最後まで目が離せませんでした。BGM、SEの使い方も上手で、凄いセンスを感じました。自主制作アニメが好きでよく見るのですが、描写や演出、構成がしっかりしている作品で見てて飽きなかったです。個人的に"視聴者に考えさせる作品"が好きなので、主人公はどう言う気持ちなのか、1人の主人公が見ているただの夢オチなのかと・・・。色々と考えられる作品でツボでした。
かいりきベア
なんといってもこの手作り感が作品の良さを引き立ててると思います。これだけのものを一人で作り上げる若き才能が素晴らしいです。作風から物語まで全てがエモいですね。今後の作品がとても楽しみです。ありがとうございます。

選考委員一覧

【小説】

蒼山サグ、時雨沢恵一、成田良悟
(五十音順)

【イラスト】

慧子

【楽曲】

banvox、かいりきベア

ⅡⅤクリエイターアワード」PJチーム
ⅡⅤ」編集部

選考委員総評

小説部門最終選考委員蒼山サグ
個人的には「一強だったな」という率直な感想です。文章力という捉え方なら各作品横並びで高いレベルにあるのですが、作品に込められたテーマ性とその消化(あるいは昇華)、という部分で一本だけ次元の違う秀逸さが感じられる傑作を読めたな、という幸福感があります。他の作品の粗がとりたてて目立ったわけではなく、ただひとつ、強すぎる相手がいた。自分以外の選評者様たちがどう評価したかはひとまず脇に置かせて頂いて、他の作品もそれぞれ魅力的ではあったので、今回は巡り合わせが悪かったということで、選外となった方たちの作品もまた読ませて頂きたいと強く思います。矛盾しているようですが全作通してレベルは高かったですし、一読者としてたいへん楽しませて頂きました。
小説部門最終選考委員時雨沢恵一
全作品、大変に面白く読ませていただきました。同じテーマでいろいろな切り口があるなと、勉強になりました。どれも完成度が高く、もうそのまま本になってもおかしくない作品ばかりだと思います。順位をつけねばならないのが選考ですのでつけましたが、それは本当に「私の好み」での順位です。完成度ではありません。皆様、力作応募お疲れ様でした!
小説部門最終選考委員成田良悟
私個人にとって、非常に難しい選考でした。何しろ私は
青春をテーマにした小説や映画にあまり触れない人間なのです。そんな私による選考なので大分偏っているかと思いますが、そこはお許し頂ければ幸いです。今回集まった
青春と学園をテーマにした小説群ですが、どれもこれも確かにテーマに沿いながらも、その雰囲気はそれぞれ全くの別物です。それこそが最も選考が難しいと感じさせた部分です。同じ雰囲気の作品ならば優劣が比較できるのですが、各作品、いずれもまったく違う切り口の青春を描いており、(あくまで私の中で)測る物差しが違うではありませんか! 例えば球技という題材を使った二つの作品も、かたや若々しい学生達をメインにした王道的青春スポーツ物語。かたや東大という実在の場を舞台に、生徒を見守る立場である大人達の青春群像で、そのどちらもハイレベルなものでした。正直、どの作品も最優と言って差し支えない出来映えであり、「もう全員大賞で良くないだろうか?」と思いましたが、純粋に自分の好みで順位を付けさせて頂きました。ですが、私の中ではどれも良作でした。本となったり挿絵がついた後で改めて読んだら順位がまた変わるかもしれない、そのぐらいの僅差だったと思っていただければ幸いです。青春に年は関係ないという事を知らしめて下さった投稿者の皆さんに、ただただ感謝を!!
イラスト部門最終選考委員慧子
最初に拝見した際、すべての作品のレベルがあまりにも高すぎて、改めて選考させていただく恐れ多さに緊張と動悸がものすごかったです。「青春・学園もの」というテーマから、身近で懐かしく感じるテイストから壮大な世界観を感じさせるものまであり、表現の幅広さの可能性を感じさせてくれて、自分自身とても勉強になりました。今回は特別な秘密基地で青春を謳歌する少女たちを迫力ある構図で描いたSOLLさんの作品を選ばせていただきましたが、本当にすべての作品がとっても素敵でした。ありがとうございました。
動画・音楽部門最終選考委員banvox
誰もが通って来たであろう物がテーマなので、作者によって様々な解釈の作品になっていて、とても楽しく審査させていただきました。自分で作った作品はどこかで誰かの青春になっていると思うので、全作品を通して“青春”の大事さを痛感しました・・・。もっと様々な作品に触れて、勉強したい気持ちになりました。ありがとうございました。
動画・音楽部門最終選考委員かいりきベア
自分自身が音楽家なので、音楽については手厳しい審査になったかもしれません。映像については雰囲気や物語などが作品によってこんなに違ってくるのかと驚きました。作品たちのクオリティから、ものづくりに対する熱意を感じると共に、自分自身、何かを作ることに対しての楽しさを思い出すような感覚で、審査をさせてもらえることで、また勉強もさせていただきました。

最終選考作品一覧

小説 部門

  • 『彼女の部屋にはブルーがない』及川一乃

    <作品紹介>

    千賀りんは大雨を見るたび、幼少時に吃音症のマコトと過ごした日々を思い出す。マコトは、両親の離婚がきっかけで東京から福岡に移住してきた小柄な少女だった。りんはマコトのことを壊れそうな宝物みたいだと感じて仲良くなっていく。そんなマコトも中学に上がり、やがて吃音もなくなり彼氏もできて自分から少しずつ離れていく……。社会人になった今でも雨の日はいつもマコトとの日々を思い出し、胸がキュウッと締め付けられる。あんなに大切な日々は、もう二度と来ない。今でも、本当にそう思う。

    蒼山サグ
    登場人物の抱える症状や名前によるギミックが、物語の本筋に対してあまり貢献していない印象を受けました。この物語は、こうじゃなきゃダメ、という説得力を感じづらかった印象です。短編なので尚更、読者に膝を打たせるにはある種の機能美が設定から感じられるとよりよくなるのではないかと思います。
    時雨沢恵一
    シンプルでこれぞ短編! という一作でした。個人的に短編が大好きなので。叙述トリックにすっかり騙されましたがそれが心地よく、読み直してまたホッコリしました。ラストは切ないのですが、これ以外のオチでは成立しないですよね。
    成田良悟
    子供達が成長するに従い、青色は時に輝き、時に雨に濡れて輝きを曇らせる。
    その描写を儚くもどこか美しく、雨とカエルをなぞらえながら早口言葉のギミックを巧みに使って描写した手法が素晴らしかったです。
    ビターエンドでありながら、最後まで読み終えた後に冒頭を思い返し、彼女の部屋から失われた青色はそれでもまだ心の中に揺蕩っている事を確認しつつ、今後の主人公の幸せを願いたくなるような一作でした。
    ともあれば複雑に長くなりそうな話を、敢えて短編という形で纏め上げたセンスはとても良いと思います。
  • 『『セイテンノヘキレキ』
    ~僕と青空×3×3と仲間たち×潮風と
    クラッシュベリーの香り~』上江村想

    <作品紹介>

    大学一年生の四月、屋外コートでバスケットをしていた榎本雷太は、同い年の女子である花車青空に「3on3」の大会に誘われる。大学内でもう一人の仲間を探すことになり、高身長の平岩吾妻、そして吾妻の恋人である光里蛍を応援係として引き入れチームを結成。バスケの実力には自信があった雷太だが、同じ大会に参加予定の社会人チームと練習試合をして大敗を喫してしまう。一時は落ち込んだものの、大会に向けて新たな気持ちになった雷太はチーム名を『セイテンノヘキレキ』と決め仲間と練習を重ねる。

    蒼山サグ
    迫力あるバスケシーンの描写はとても良かったと思います。いっぽうで、ドラマとしてのラインが少しとっちらかり気味な印象を受けました。主人公の抱える過去と、ストーリー上で語られる『今』の間にリンクが薄く、困難を乗り越える熱さをもっと表現できていればスポーツモノとしてより華が演出できたのではないかなと。主人公以外のキャラのバックボーンももっとがっちりビルドしてあげた方が熱が伝わると思います。最終戦が顕著で、相手側にドラマが見えないと壁を越える達成感も読者に伝わりづらい部分があります。
    時雨沢恵一
    青春スポーツ物として申し分ない完成度だったと思います。キャラクター達も魅力的でした。3対3のバスケには詳しくなかった私でも、あえて括弧で囲って入れた注意書きが有り難かったです。バスケボールの節マーク可愛いですね。楽しい小説でした。
    成田良悟
    青春とスポーツの組み合わせは王道ですが、この組み合わせに相応しく、文章もキャラクターも若々しいエネルギーに満ちていた一作だと思います。ともすれば突然な終わりにも見えますが、だからこそ「まだ彼らの青春は始まったばかりなのだ」と思わせ、この先の展開を見させる見事なシュートインでした。ライバルの高校生チームのキャラも立っていて好感が持てましたし、逆に主人公の過去に関して打ちのめされる脇役が短い描写できちんと読者のヘイトを稼いで即座にそれを解消する事で試合前の弾みとなる良いカタルシスになっていたかと思います。
    『ちゃんとしたいから』という理由で授業をサボりつつチーム名を決めるという流れの場合、主観的なら情熱が伝わるので解りますが、雷太の目を通して客観的な視点で見た場合には賛否が分かれるかと思いますので、逆に『ちゃんとしたいからこそ授業は授業でちゃんとやる』という手もありだったかもしれません。
  • 『帝大リローデッド』杉山高志

    <作品紹介>

    東京六大学野球リーグで万年最下位の東京大学。その新監督に就任した野木裕一はリーグ戦開幕を前に、野球部長の添田隆から六大学連盟の驚くべきことを伝えられる。それは、早慶、明治法政、立教に東大という不動の六校で構成するリーグに新しく二部制を導入し、一部の最下位校は新設の下部リーグ首位校と入れ替え戦をされるという前代未聞の理事会提案。野木は万年最下位の崖っぷち東大野球部を救うため、不可能と思えるミッションに挑むことに。

    蒼山サグ
    野球モノとして斬新な切り口を楽しませて頂きました。文章も理知的で非常に読みやすかったです。ただ、ところどころ理知的すぎて語り部である監督の感情ラインが見えづらかった部分も。もっと喜怒哀楽に振り回される姿も個人的には見たかったかなと。話の展開としても少し『理屈・理由付け』に割かれた時間が長すぎるように感じ、野球という題材の速度感とマッチしていない感じがしました。つけくわえると、突然現れたエースに対するナインの感情描写ももう少し見たかったです。チームとして苦楽を共にしてきた絆のようなものが希薄で、いきなり現れたキャラをすんなり受け入れすぎている気もします。監督とエース、という関係を強調してスッキリ見せたかった意図があるのかもしれませんが、スポーツモノとして受け止めるなら良い意味で人間心理のドロドロ感を匂わせる場面があってもよかったかも。
    時雨沢恵一
    大学野球についてまったく知らなかったので、まず大変に勉強になりました。その上でのミステリー仕立ての主役探しから、最後にその謎が判明するまで、ドキドキしながら一気に読ませてくれました。途中の試合を読ませる方法は、膝を打ちました。
    成田良悟
    「実在の大学をそんなに弱い弱いと書いて大丈夫なものだろうか、現役の学生が読んだら怒らないだろうか」と思いつつ読み進めましたが、これが中々に面白く、プロ野球とはひと味違う理で動く六大学野球というものが実に魅力的に描かれている作品でした。
     登場人物の大半は、六大学野球に己のプライドと人生を賭けている大学の教授や職員達、そこに現れる一人の逸材選手を巡ってそれぞれのやるべき事にひたむきに駆け続ける姿は、紛れもなく青春小説だったと思います。
     大人達にも青春はあるのだ、という事を感じさせてくれる熱い作品でした。逸材が現れながらも、それを快く受け入れた他のチームメイト達の物語や、高山選手などの今後も気になる所で、どうか彼らの未来にも栄光があらん事を!

イラスト 部門

  • 『どうか桜が咲きますように』睦城

    『どうか桜が咲きますように』睦城
    慧子
    男子高校生3人それぞれの制服の着こなしや小物にとても個性がでていて、細かいところまでじっくり見入ってしまいます。おそろいのヘアピンやお守りなどに仲の良さが伺えてめちゃめちゃ微笑ましい…! 必死な表情も相まって、「どうか3人に無事に桜が咲いていますように」と願わずにはいられないイラストでした。この3人が青春を謳歌するアニメが見たいと思うほどキャラ性が強い…!! カラフルなのにごちゃついていない色使いもとても勉強になります!
  • 『最強のいつメン!』しんいし智歩

    『最強のいつメン!』しんいし智歩
    慧子
    プリクラ、すごく懐かしいですね…仲良さげですごく微笑ましいです! 豊かな表情や雰囲気から、「きっとこの子はお洒落さんでませていて…」「この子は運動部で溌剌としてそう!」と学校での様子を想像させてくれて、さらにこのプリクラを懐かしむ未来の彼女たちの姿も見たくなっちゃいます。かわいい雰囲気の中に懐かしくてかけがえのない青春のきらめきを描いていてとっても素敵でした!
  • 『私の定位置』モナカ

    『私の定位置』モナカ
    慧子
    ポップでどこか懐かしさを感じさせるレトロ感ある色使いがとても素敵で、左下にキャッチコピーをつけたらそのままポスターとして貼りだされてそうな完成度です!ところどころ使われたドットがイラストをあっさりすっきりしすぎないような効果を出しています。シンプルながらデザインに寄りすぎないイラストで、すごく目を惹きました!
  • 『青い春に咲く』梅星太朗

    『青い春に咲く』梅星太朗
    慧子
    桜と全体的な青の描写に透明感があふれていてとても美しいです。質感のわかる塗りで、特に髪の艶やかさが目を惹いて、どうやって塗っているんだ…?と思わずドアップにしてじっくり見てしまいました! 白い肌にうっすらとさした赤が印象的でかわいらしい雰囲気ですが、どこか艶があり、これから大人になる少女たちの青い春の儚さが描写されていて、とても素敵でした。
  • 『空撮同好会のゆるゆる活動中に現れた
    巨影は。』すぺ

    『空撮同好会のゆるゆる活動中に現れた巨影は。』すぺ
    慧子
    ダイナミックなアオリ構図で、空に浮かぶ飛行船の迫力がとてもよく分かります! 大きな影に気づいたこの3人は、空を見上げてどんな反応をするのか、次の瞬間がとても楽しみになります。風になびくプリーツスカートの描写もさわやかで素敵です。これからどんどんとんでもないことが起こる予感がする、ワクワクするイラストです!
  • 『買い食い』hir

    『買い食い』hir
    慧子
    統一感のある色味の中に青いリボンが映えていて素敵です。三人とも同じバスケットボールのマスコットを付けていて、すごくリアルというか、こういう手作りのお揃いのマスコット、自分たちで作ったりマネージャーさんに作ってもらったりしてましたよね! 部活の後の季節問わず香るシーブリーズと、買い食いの特別感の思い出に浸れるイラストでした!
  • 『通学路』巽たくあん

    『通学路』巽たくあん
    慧子
    人の作り出したものが自然に還っていく世界の澄んだ空気感がすごく伝わります! 後ろの巨大な機械や金髪の子の持つ銃から不穏な気配が漂いつつも、二人は和やかな雰囲気で、この世界で一体どんな青春を過ごしているのだろうととても気になります。ワクワクするような、でも少し切なくなるような世界観が表現されているイラストでした!

動画・音楽 部門

  • 『lost my lover』SAKE

    banvox
    切ないけど疾走感のある感じで、青春の終わりを感じる作品。
    展開や映像でクラブミュージックに影響を受けているのを感じました。
    音色の使い方で青春を演出しており、上手だと思いました。
    クラブミュージック寄りにしなくても、編曲次第で色々とイメージが変わる作品だと思います。
    かいりきベア
    青春を感じられる淡い気持ちがサウンドに込められているようでした。王道な印象で、BGMなどに最適なイメージです。部活が楽しそうで羨ましい限りでございます。仲間と一緒に音楽に夢中になりたいですね。ありがとうございます。
  • 『School Days』per sonare

    banvox
    明るい学園ものを感じるメロディーとビートが良い感じにテーマに沿った楽曲。
    最初から最後まで展開があって、ドラムの使い方が上手だと感じました。
    同じメロディーでも、ドラムの使い方で物語を演出していて、最後まで青春で終わる作品でした。
    かいりきベア
    まさしく応援のイメージにぴったりな楽曲でした。軽快なサウンドとリズムでノっていけるような。楽器の構成もシンプルで聴きやすいです。途中から底抜けに明るくなるところも勇気をもらえそうですね。ありがとうございます。
  • 『降霊術』トリ肉

    banvox
    とてもおもしろかったです。
    学校でよくある光景を数枚の絵とセリフで、のめり込ませてくる作品。
    内容としてはよくある学園ホラー系なのですが、アニメーションや演出、絵のクオリティで最後まで飽きない感じでした。
    最後どうなるのか気になって見ていましたが、王道的な終わり方で少しニヤっとしてしまいました。
    かいりきベア
    BGMの無い静けさや、どこかレトロな雰囲気が、より内容の不気味さを際立てていて素晴らしいと思いました。3人の指の角度が綺麗な三角形になっていないところが自然でいいですね。短い作品時間の中にしっかりストーリーがあり、分かりやすいのも素敵です。