著者/時雨沢恵一の作品 「ア+メ+ノ+セ+イ=    」(試し読み)

 アンドリューは[傭兵{ようへい}]。
 故郷から遠く離れた地球の裏側で、金と冒険の[為{ため}]に戦った。
 銃弾が耳のそばを[掠{かす}]めたり、爆弾を落とされたり、何度死んでもおかしくなかった。でも、結局ほとんど無傷で、彼が参加できる戦争は終わってしまった。世界は平和になった。
 彼が四十五才の時だった。異国から故郷に帰ってくる途中に、船が事故で沈んで死んだ。

 メアリーは王女。
 とある国で産まれてからずっと、飢えることも[凍{こご}]えることも知らずに生きた。歌の[上{う}][手{ま}]い王女だった。
 わずか十二才の時、他の国の見たこともない王子様と政略結婚をさせられた。
 三十才も年上の、みすぼらしくも太った王子は、メアリーを娘のようにかわいがった。その国が革命で滅ぶときには、死んだことにして逃がしてくれた。
 その後、貧しい子ども達をコーラス隊に育てる施設を開いて、九十一才で死ぬまで幸せに生きた。

 ノンは農家の娘。
 朝から晩まで働いて、それでもわずかしか食べられない貧しい村で育った。
 たくさんいたきょうだいたちは、[飢{う}]え[死{じ}]にするか、親に売られるかして、村から消えていった。
 ノンだけは、別の畑からの盗みが上手かったという理由だけで生き残った。そうして十三才になるまで成長したが、ある日の夜、大雨で起きた[土{ど}][砂{しゃ}][崩{くず}]れで、村ごと[埋{う}]まって死んだ。

 

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