まえがき
皆様こんにちは。作者の時雨沢恵一です。
本日は、この場を少々お借りしまして、今回初めて『学園キノ』に触れる皆さんに、この作品について、皆様に紹介したいと思います。
(既に知っている方は、レッツ読み飛ばし! ゴー・ツー・ネクスト・ページ!)
一言で行ってしまいますと、私の代表作『キノの旅 the Beautiful World』のセルフパロディ小説でございます。
作中の設定では一応、
『キノ達が宇宙へと旅立ったあとのこと。立ち寄った惑星〝地球〟の女神様によって、その記憶を奪われて高校生にされてしまった。魔物から世界を救うために、変身ヒロインになって大活躍!』
という体ですが――、
まあ、ぶっちゃけ別モノだと思ってくれると作者としても嬉しいです。宇宙とか、たぶん行かない。
元々は、お祭りの時に発売される本だけに掲載されるように書かれたのですが、私が文庫化を切望したので後に①巻が発売され、輝かしい歴史が始まりました。
以後書き下ろしで巻を重ねて、とうとう⑤巻まで世に出ておりました。我ながら、とてもビックリです。
そして今年(2019年)、なんと実に8年ぶりに、⑥巻が発売になりました! とても嬉しかったです。Twitterで発表したらみんな信じてくれなくて困った。
そして今回――、
その続きとして、新作をウェブで先行掲載するという運びになりました。
勢いに任せて書いちゃったパートだったのですが、⑥巻に入れると大変にページ数がオーバーする事が分かりまして、泣く泣く収録を諦めました。しかしウェブで! 続きはウェブで!
ですので、これから始まる話は、⑥巻の続きになります。
⑥巻まで読んでいた方がより楽しめますが、簡単なキャラクター紹介はこの後にありますので、ここから読んでもたぶん大丈夫なのかもしれません!
簡単なキャラクター紹介
木乃(本編ではキノ)
このお話の主人公。高校一年生。
変身して、『謎の美少女ガンファイターライダー・キノ』となって戦う。
エルメス(本編ではエルメス)
木乃の腰にぶら下がっているストラップ。
女神様の記憶改竄が及ばず、あわやスクラップにされそうになったときにストラップがいいと希望を述べたらその通りになった。
静先輩(本編ではシズ)
白ランの先輩として登場。日本刀は手放していない。『サモエド仮面』という変態に変身してバトルシーンにも顔を出してくる。
静先輩は木乃に好かれているが、サモエド仮面は蛇蝎のごとく嫌われている。
犬山・ワンワン・陸太郎(本編では陸)
犬だけど人間。美少年。静への復讐心に凝り固まったちょっとアレな人。
木乃には少々嫌われている。
ワンワン刑事
バトルシーンでキノを助けてサモエド仮面を狙う謎の少年。
キノには少々好かれている。
茶子先生
謎の美女先生。
エリアス
中等部一年生の生徒。
沙羅
中等部一年生の生徒。
@言い訳
本文中の情報は、執筆当時(二〇一九年)のものです。
序章
それは、火曜日のことでした。
すぐやる部が、野球部とバトルったのが一昨日の日曜日。
部活動と称して水ようかんを食べることしかしなかったのが昨日の月曜日。
そして、その次の日のこと。そして放課後でした。
「というわけで、はいはい皆さん注目ちゅうもーく! アテーンション!」
テンションが低いときがない茶子先生が、部員達の前で手を挙げました。
木乃が、静が、犬山が、沙羅が、そしてエリアスが、つまりは部員オールスターズがイスに座って黙って見ていました。
今日の部室は、理科室です。
水道がついた天板の黒い大きなテーブルがあって、背もたれのない木製のイスが並んでいます。天板が黒いのは、白い実験物質がこぼれたときに目立つため。背もたれがないのは、避難が楽であり、そしてテーブルの下にしまいやすいためですが、別に知らなくても生きていけます。
テーブルは縦に三列並んでいるのですが、中央最前列の一つを取り囲むようにして、全員が座っていました。
そして、テーブルの上には大皿が一枚置いてあって、そこに、みたらし団子が山になって置いてありました。
文字通り山です。団子が作るピラミッドです。はたして何本あるのか、空間把握の問題にできそうです。
さっきまでみたらし団子が入っていた大量のプラパックが、ゴミ箱に容赦なくぶち込んであります。
そこに書かれている店名は、超が三つくらい頭に付く有名店。甘く香ばしくもっちりとした逸品で、買うときは絶対に二時間は並ぶという、伝説の品です。
「先生! それより、団子を食べていいですか?」
木乃が訊ねて、茶子先生は答えます。
「〝今からする話が終わってから食べましょうね〟って、十秒前に私言ったわよね? 〝というわけで〟の前に」
「言いました。ただ、その十秒で世界を取り巻く事情がガラリと変わったかと思いまして訊ねてみました。〝世界は常に変化する、その変化についていける者だけが生き残る。サバイバル・オブ・フィッテスト〟――そう、お婆ちゃんがよく言っていました」
「なるほど。そして、ダメ。世界は変わっていない。だから、話を聞いてからね」
「ぐっ、辛い……。悲しい……。なんという悲劇かっ……。目の前に、手を伸ばせば、こんなにっ、すぐそこにあるのにっ……。ああ、食べてあげられなくて……、ゴメンね……、許してなんて……、言えないよね……」
本当に辛く悲しそうな木乃を差し置いて、茶子先生は、
「次の部の活動が、私達のやるべきことが決まりました! ハイみんな拍手!」
ぱちぱちぱちぱち。
木乃以外が拍手しました。
「うーん、ありがとう。ありがとう」
茶子先生、まるで自分が群衆に称えられているかのように喝采を浴びて、拍手が収まるのを満足顔で待ちました。
それから、ゆっくりと口にするのです。
「実は……、この学園の、廃校が決まりました」
「廃校、ですか?」
問い返したのは静です。それなりに驚いていました。
「そう、廃校。学園がなくなる、というそのまんまの意味」
ざわっ、ざわざわ。
部員達の間に、驚きが波紋のように広がりました。
犬山はすっと目を細くして、エリアスは口を開けてポカン。沙羅は、息をのんで小さな手を口に当てました。
そして、木乃は、天板に顎を乗せて、じっと団子を睨んでいました。無言でした。
「なんと……。驚きです。それは、いつのことですか?」
静が訊ねて、
「五年後のこと」
茶子先生が答えました。
部員達から、
「なんと」
「ふん」
「なんだあ」
「ほっ」
安堵の言葉が洩れました。ちなみに静犬山エリアス沙羅の順番です。こうして全部並べると、〝静犬山・エリアス・沙羅〟というなかなかナイスなロングネームになると作者も今気付きました。
そして主役の木乃は、団子を見つめて黙っていました。
「そう、五年後なのよね。要するに、ここにいる全員がサクッと卒業しちゃった後なのよ。だから、別にどーってこたないわねえ」
うんうんうん、部員達が頷きました。
「ま、理由はよく知らないけど、少子化とか放漫経営とかそんなよくあるアレだと思うので、私達が気にしてもどうなるわけでもないし、口出し手出しできるものでもないし。廃校後は校舎は取り壊しもできずに放置されて、よくある心霊スポットになるって話だし。というわけで、まずは廃校の話はお終い」
お終いみたいです。
別に、母校を廃校の危機から救うために、みんなで何かをやる必要はないようです。例えば全員でアイドル活動とか、戦車に乗るとか、文化祭で合唱をやるとか――、今回の話は、そういうんじゃないようです。
木乃が、スッと手を挙げました。
「先生、もう食べていいですか?」
「まだダメ。世界は相変わらず。そして、これからが本題。次の部の活動が決まったから、それを聞いてもらいます」
ごくり。
次は何をやるのだろう、あるいは、やらされるのだろう。
期待と不安に、部員達が唾を飲み込みます。
ごくり。
いいから早く食わせろよ暴れるぞ?
期待と怒りに、木乃が唾を飲み込みます。
「みんな!」
ばん。
茶子先生、勇ましい笑顔と共に、教師用の机を格好よく勢いよく両手で叩きました。そして、
「痛い……」
勢いがよすぎたようです。
「大丈夫ですか先生? 団子を食べるとすぐに治りますよ?」
「心配ありがとう木乃さん。でも大丈夫。私には、次の活動を発表するという崇高な使命があるから」
少し赤くなった両手の平をヒラヒラと振りながら、茶子先生は言いました。
「して、その活動とは? 今度は一体、何を食べるのですか?」
木乃が訊ねました。恐ろしいほど真剣な表情でした。
「今回は、割といろいろなモノを食べられるわよ。むしろ、食べることすら行動の一環とも言えるでしょう!」
茶子先生が答えたとき、
「なんだとっ!」
木乃は輝きました。
文字通り輝いて、隣にいた沙羅などは、こんなこともあろうかと用意していたサングラスを素早く装着したくらいです。
「みなさんにはこれから――」
茶子先生が、ぐぐっと体を乗り出しました。
「キャンプをしてもらいます!」
キノの旅第四部・学園編(番外編)
「木乃キャン」