試し読み 女騎士さんは転職したい(試し読み)

 

  プロローグ

「先生……今、なんて?」
 [玉{ぎょく}][座{ざ}]の間の中心で、俺は手にした剣に訊き返した。
「君と出会えて良かった……そう言ったのだ少年」
 ぎゅっと[柄{つか}]を握る。俺が意識せずとも、剣の切っ先は常に『魔王』を補足し続けた。[漆黒{しっこく}]の[繭{まゆ}]のような結界で身を守るソレを前に、剣は続ける。
「だが少年よ……この悲しみと憎しみは、誰かが止めなければならない」
 魔王を包む漆黒の繭がドクンと脈動した。
「俺の命を使ってくれ! 先生が犠牲になることなんてないんだ!」
 俺の代わりなんていくらでもいる。だが、この世界に先生の代わりを務められるやつなんていない。
「君には未来を生きてほしい。私はこの世界と君を守りたいんだ」
「そんな言い方しないでくれよ。先生が消えるんじゃ……俺だけ残ったって……」
「今の君なら私の手助けも必要ないはずだ」
 [頬{ほほ}]を水滴が流れる。両目から止めどなく[溢{あふ}]れて[顎先{あごさき}]を伝い、剣の柄にはめ込まれた[宝{ほう}][玉{ぎょく}]に[滴{しずく}]が落ちた。
「さあ、世界を救うぞ」
 魔王を包む漆黒のオーラが羽化するようにかき消える。
 生まれたそれには翼があり、角があり、[尻{しっ}][尾{ぽ}]があった。全身を硬い鉱物の[鱗{うろこ}]に覆われ、さながら竜のようでもあった。
 人とも[獣{けもの}]とも竜ともつかない。もはや先ほどまでの魔王としての威厳は残されていない。三度倒して三度立ち上がり、倒すたびに人の姿を失い、今や醜悪な化け物だ。
 胸に輝く[紅{あか}]い宝玉――魔王の心臓は今にも爆発寸前だった。
 もしこの化け物が胸の宝玉に満ちた魔法力を解き放てば、魔王城はおろか城を取り囲む魔族の国をも呑み込み、中央大陸の半分が消し飛びかねない。
 命をかけて止める。それは[比{ひ}][喩{ゆ}]的な言葉ではなかった。
 白刃に告げる。
「先生……俺……できないよ」
 柄と刀身の間にはめ込まれた緑の宝玉がうっすら輝いた。
 聖剣テイルウインドには英雄の魂が宿っている。
 旅を続けるうちに俺は聖剣を先生と慕うようになり、テイルウインドも拒まなかった。
 そんな聖剣の切っ先は、破裂しそうなほど[煌々{こうこう}]と輝く魔王の心臓に狙いを定めていた。
「君ならできる」
 出会った時からずっと剣に――天空より飛来した聖剣テイルウインドに身を任せきりだった。
 この半年間、俺は無心で、ただ聖剣に従い剣に振り回され続けてきた。戦っていたのは先生で、俺は身体を貸していたにすぎない。
 その肉体も、魔法と薬で強化してなお限界が近づいている。
 魔王が獣の[咆吼{ほうこう}]を上げた。
 生じた衝撃波が俺を吹き飛ばそうと吹き荒れる。
 だが、聖剣テイルウインドは風を[操{あやつ}]って衝撃波を相殺した。さすが先生だ。得意なのは風系統だが、先生は剣なのに魔法も万能なのである。人間が知る地火風水光闇のどんな魔法も、無詠唱で自在に使いこなした。
 魔物に関する知識も魔道具のことも、剣はなんでも知っている。剣士だけでなく弓術士や錬金術師に神官や盗賊――戦う能力を持つ職業に関するあらゆる知識を[網{もう}][羅{ら}]していた。
 村の少年Aだった俺が魔王と渡り合えているのは、テイルウインドの力があればこそだ。
 いつ暴走して大爆発を起こしてもおかしくはない状態で、聖剣は俺に告げる。
「次の一撃に私の魂を込めて魔王を打ち倒す」
 普段の優しい口振りはそのままに、先生の声は決意に満ちていた。
 フッ……と、先ほどまで羽毛のような軽さだった聖剣が、どっしりと重たくなった。
 俺の身体を動かすための魔法力すらも、魔王を滅するためにつぎ込まなければならないのか。
 重たい。自分の身長ほどもある聖剣だからという以上に、託された責任の重みに俺は身震いする。
「さあ、少年!」
 俺は聖剣テイルウインドを振り上げる。
「……行くよ……先生」
 これは別れの一撃だ。
 魔王との間合いを一気に詰めると、斜めに袈裟斬りにしてからV字を描くようにして、再び[斬{き}]り上げる。
「[光翼刃{こうよくじん}]ッ!」
 その剣筋は光の翼となって、流れ落ちる水さえも天へと昇らせた。
 それは形のないものを斬るという技だ。先生を手にしてすぐ、降り注ぎ流れ落ちる[大瀑{だいばく}][布{ふ}]を斬るというとんでもない特訓をしたのが、つい昨日の事のように思い出された。
 光の翼は天へと開くように魔王の肉体を切り裂き、紅玉を真っ二つに両断する。
 断末魔とともに魔王の心臓から[閃光{せんこう}]が溢れて、俺の視界を白く焼いた。真っ白な世界で魔王の魔法力そのものとも言える闇の竜が暴れ回るが、光は全てを白く塗りつぶし[呑{の}]み込んでいった。
「今までありがとう。本当は君ともっと冒険をしたかった……」
「先生待ってくれよ! 行かないでくれよ! 先生がいなきゃ俺なんて……」
「平和な……世界で……幸せに……なって……く……れ……」
「俺がもっと強かったら……」
「……さら……ば……だ……」
 先生の声がかすれて消える。
「先生? 先生⁉」
 [眩{まばゆ}]い光は[止{や}]んだ。暗黒の意志によって暴走した魔王の姿もまた、[忽然{こつぜん}]と光の中に消えてしまった。
 玉座の間に敷かれた赤いカーペットの上に膝をつく。

「先生ええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!」

 俺の手に残されたのは、刃の部分が消失し緑の宝玉から光が失われた、聖剣の柄の部分だけだった。輝きの消えた宝玉はもう何も俺に語りかけない。まるで風が止んだ[凪{なぎ}]のような静けさだけが残った。
 先生は全てを[賭{と}]し、そして――魔王はこの世界から姿を消した。

 

  1.

 

 人間を中心とした多種族連合軍と魔族の戦争は、圧倒的なカリスマと統率力を持つ魔王が倒されたことで終結した。
 これを記念して聖剣を[祀{まつ}]っていた[廟{びょう}]は取り壊され、代わりに街のど真ん中に『英雄の少年の銅像』が建てられたのである。
 俺自身も英雄として王宮に招かれた。誰もが遠巻きに尊敬と期待の眼差しを向けてくる。
 あの凶悪な魔王を打ち倒したのだ。万物の知識を持ち、万象を操る魔法の才を持つ英雄――[金髪碧眼{きんぱつへきがん}]の少年が世界を救ったのだ……と。
 違うんだ。俺じゃないんだ。魔王を倒したのは先生なんだ……。
 言えなかった。傷ついた世界はまだもう少しだけ、英雄の存在を必要としていた。俺が英雄としてあればこそ、魔王の意志を継ぐ過激な残党たちも王都に手出しができない。
 先生が命を賭して手に入れた平和を守るため、[偽{いつわ}]りの英雄を演じる……しかなかったんだ……。
 [拙{つたな}]い敬語を[騙{だま}]し[騙{だま}]し使い、他人の顔色をうかがうことばかり上手くなる。
 王都を守護する将軍の手で軍備が整い、再び世界が安定を取り戻すまで、俺は秘密を抱えたまま王宮でかごの鳥のように暮らした。
 偽りの英雄を演じ続けた二年間は『自分』を忘れるには充分な時間だった。
 それでもずっと孤独だったわけじゃない。王宮には二人だけ、偽りの英雄という仮面を脱ぎ捨てて普通に話せる相手がいたのである。
 一人は銀髪にルビーのような赤い瞳の幼女で、名前はアンといった。
 出会いは王宮の中庭で、アンが棒切れを剣に見立てて振り回しているのを見かけたのがきっかけだ。王宮内にいるのだから、どこぞの貴人の娘さんなのだろう。
 ドレス姿の小さな女の子に「何をしているんだい?」と[訊{たず}]ねると「アンはね、せかいさいきょーのきしになる修行をしてるの。だから剣のれんしゅうしてるの」と、ハキハキと答えてくれる。
 背丈は長剣に毛が[生{は}]えたくらい小柄なのに、夢はでっかく世界最強とは……すごい幼女がいたものだ。
 自分もまだ十六歳になったばかりだが、訊けばアンはまだ六歳だという。俺が先生と出会って剣を振るようになったのは十四歳の頃だ。剣の道を志すのがずいぶん早い。
 そもそも、女の子なのに剣を習いたいというのも珍しい。
 王宮にあって他の全てが偽りでも、一つだけ本当の事がある。俺が唯一誇れるもの。それは先生譲りの剣術だ。
「剣術を教えてあげようか?」
「うん! 教えて教えて!」
 そんな他愛ないきっかけから、俺はアンに剣術を指導するようになった。才能があったのか幼女にも関わらず、見る見るうちに上達したのには驚いたものだ。
 毎日、昼下がりに中庭の噴水前で手ほどきをしていたある日のこと――
 アンがうっかり足をもつれさせて転んでしまった。
「大丈夫かアン?」
「う、うう、うぐぬぬぬ!」
 涙を目にためつつもこぼさずに、下唇を噛んで幼女は痛みをぐっとこらえる。[膝{ひざ}][頭{がしら}]をすりむいて血が赤くにじんでいた。
「せんせーアンはいたく、いたくないから! こんなのへっちゃらですから!」
 俺が今では先生……か。先生なら光属性の回復魔法で治せるが、俺にはできない。
 英雄は世間的にはなんでもできることになっているのだが、アンはあまりそういったことは気にしなかった。
 アンに剣術を教えるようになってから、改めて聖剣が本当に『先生』だったのだと痛感する。
 だから困った時、俺は心の中にある先生をイメージして演じるのだ。
「泣かないなんて偉いな」
 手を差し伸べること。そしてがんばったことを[褒{ほ}]めて認めてあげること。自分の力で立ち上がれると信じて待つこと。
 先生は俺ができるようになるまで信じて待ってくれた。だから俺もアンが自分で立ち上がるのを待つ。
「うん! アンは泣かないよ!」
 俺の手をとって幼女はぐいっと立ち上がった。
「けど傷は[綺{き}][麗{れい}]にしておかないとな。ちょっと染みると思うけど、[我{が}][慢{まん}]してくれよ」
 たとえ魔法は使えなくても応急処置くらいはできる。俺は幼女を抱き上げて、噴水の水で傷口を洗い清めた。
「ううっ! ぐぬぬー! うぬぬぬー!」
 アンには気の毒だが、子供らしからぬ声を[漏{も}]らすのがちょっとおかしい。
「せんせーなんで笑うの?」
 傷の痛みより俺が笑ったことに幼女は口を尖らせた。
「ごめんごめん。あとは……これを」
 俺は[懐{ふところ}]から赤いスカーフを取り出して、アンの膝の辺りに巻く。
 無理はさせず、今日の修行はこれくらいにしておこう。
「せんせーの巻き巻きだぁ。これ、アンの宝物にしていい?」
 幼女の瞳が輝いた。膝に巻かれた赤いスカーフはさながらリボンのようだ。
「え? あ、ああ。構わないけど」
 ベンチに座らせると、幼女は両脚を空中でバタバタさせながら俺に[訊{き}]いた。
「アンはせんせーのツンツンな金色のかみの毛も、海みたいな青いひとみも、ぜんぶぜーんぶ大好きだけど、せんせーはなにが好き?」
 一瞬ドキッとしてしまった。宝石のようにキラキラした幼女の瞳は、いつもまっすぐに俺を見つめてくる。
 この純真な[眼{まな}][差{ざ}]しに弱い。自分を偽れなくなってしまう。
「ん、そうだな……辛い食べ物とか好きかもしれない。最近はシノワ国の激辛料理が好みだな。[麻婆{マーボー}][豆{どう}][腐{ふ}]とか麻婆[茄{な}][子{す}]とか」
 東方地域に伝わる料理だ。作ってもらう時は宮廷料理人にお願いして、[唐辛{とうがら}][子{し}]や[花山{はなざん}][椒{しょう}]を十倍二十倍に増やしてもらっている。
 他にも南方の香辛料を使ったカレー料理も好きだ。王宮にいて良かったことの一つに、異国の料理を口にする機会に恵まれたことがあるかもしれない。
 アンはぐっと[脇{わき}]を締めるようにして両手を結んだ。
「それじゃあアンもまーぼーどうふとか、から~い食べ物好きになるね!」
「アンにはちょっと辛すぎるかもしれないぞ?」
「だいじょうぶだよ。アンはつよいから。あのねあのね! だからせんせーは牛乳飲んで!」
「どうして牛乳が急に出てくるんだ?」
「アンは牛乳がだーいすきだから! ほんとはからいのすっごく苦手……」
「無理しなくてもいいんだぞ」
「でも、アンはせんせーといっしょがいいの! アンね、せんせーみたくもっともっっっと強くなりたいんだぁ」
「激辛料理を食べても強くはなれないんだけどな。どうしてアンはそんなに強くなりたいんだい?」
「せんせーがみんなを守ってくれたから、こんどはアンがせんせーもみんなも守ってあげるの」
 幼女の言葉に先生の声が重なった。
「俺も守ってくれるのか?」
「うんうん! だってせんせーね、ときどきなんだかさびしそうだから。アンがそばにいて守ってあげるの。もうさびしくないよって」
 はにかむアンに[愛{いと}]おしさが[湧{わ}]く。大人たちの前では気を張って英雄を演じていたが、アンの前では素に戻っていたようだ。小さな女の子に心配かけるくらい、俺は情けない顔をしていたのか。
「アンは優しいな。ありがとう」
「だから明日も教えてねせんせー! 約束だよ?」
「ああ、もちろんさ」
「あさってもしあさっても、ずっとずっと約束だからね」
 赤い瞳を細めてアンは笑顔を[弾{はじ}]けさせた。

 そして――
 王宮で出会ったもう一人の理解者がいる。王の相談役をしている賢者のじいさんである。
 [痩{そう}][躯{く}]の三白眼で[箒{ほうき}]のような白い[髭{ひげ}]がトレードマークだ。いかにもいじわるそうな顔つきだが、賢者の名は[伊{だ}][達{て}]じゃない。俺が魔法を使えないことをすぐに見抜いた。
 すべて聖剣がやったことだと打ち明けたのは、このじいさんにだけだ。
 王都の外壁の修復が終わり、王立軍も組織を建て直して治安も安定したある日、俺は王都の街並みを一望できる王城の塔の上に呼び出された。
 バルコニーから復興した城下町を見渡し、賢者のじいさんが[溜息{ためいき}]をつく。
「そろそろ偽りの英雄もお[役{やく}][御{ご}][免{めん}]かのぅ」
 銅像まで建てられてことあるごとに民衆の前に姿をさらし、手を振るだけの置物として役目を[全{まっと}]うしてきた俺に、賢者は笑いながら薬の入った小瓶を差し出した。
「こいつを飲めばお主は死ねる」
「ついにボケたかじいさん」
「わしの脳みそは玉袋よりもしわっしわで現役バリバリじゃ」
「賢者とは思えないセリフだな?」
「前々から思っておったが、お主はわしに対して口調に敬意が足りぬぞ。プンプン!」
「プンプンっておいおい……。わざわざ人を呼び出しておいて、死ぬような薬を笑いながらよこすな」
 正体を看破されてからというもの、じいさんとのやりとりはこの調子だ。
「そんな薬はいらないからな。おちょくってるんなら帰らせてもらう」
「ふぉーっふぉっふぉっふぉ! そう[急{せ}]くな。チョイと突いた時のお主の反応が面白いもんで、つい楽しくてやってしまうのじゃ。老人の[戯{たわむ}]れに付き合うのも若者の務めじゃろ?」
 じいさんはペロッと舌を出すと片目を閉じた。こんなに灰色がかったテヘペロは見たことがない。
 俺は溜息まじりで返す。
「で、じいさん……用件は?」
「最初に言った通り、お主が死ぬための薬をやる」
 小瓶を俺に手渡して賢者は目を細めた。
「本当に死ねっていうのか?」
「そうじゃそうじゃ。お主がつまらんと思える人生なら、いっそ死んでしまえばよかろう?」
 冗談っぽい口振りだが賢者の目は笑っていない。
 そのままじいさんは続けた。
「英雄の名は重かろうて」
 手渡された小瓶の中身はどす黒く渦巻いている。身体に良いとは思えぬ代物だ。
「そいつはのぅ……ジャジャーン! なんと飲めば別人になれる薬なのじゃ。ま、二度と元の姿には戻れぬがのぅ」
 このじいさんは何者なんだ? そんなものを作れるのだから、賢者の名は伊達じゃないのかもしれないな……。
「いい加減に恩師の影を追いかけるのはやめたらどうじゃ」
「べ、別にそんなつもりは……」
「お主の人生を生きろ。誰のためでもなく自分のために」
 フッと賢者の眼差しが柔らかく優しいものに変わった。
 俺は手の中の小瓶をそっと握る。じいさんはゆっくり[頷{うなず}]いた。
「なんならその薬はわしのいないところで飲めばよかろう。わしも知らねばもう誰も、お主を英雄とは呼ばぬから安心せい。英雄は旅立ったとでもわしから王には伝えておくさ」
「どうしてそこまでしてくれるんだ?」
 じいさんは髭を[撫{な}]でた。
「ただの賢者のおせっかいじゃ」
 賢者は自由を与えてくれるという。
 とはいえ、俺の故郷はもう地図の上にはなく、帰りを待つ人もいなかった。
 [独{ひと}]り……か。
「俺には行く当てもないし……やりたいこともないんだ。外に放り出されてやっていけるかな」
 じいさんは困ったように白い[眉尻{まゆじり}]を下げた。
「青臭い自分探しでもするがよかろう? わしも昔はそうじゃった。懐かしいのぅ」
「あんた生まれた時からじいさんだったんじゃないのか?」
「んなわけなかろう! わしにだってお肌がピチピチしていた若かりし頃があるんじゃい」
 ムッとした顔のまま、腕組みをして賢者は言う。
「生意気なお主に人生の先輩として、一つ助言をくれてやろう。やりたいことがないなら、できることから始めればよいのじゃよ」
「できることって言われても、先生と違って俺はなんにもできないよ」
 老人が溜息まじりに組んだ腕を開いて軽く上げながら、肩を上下に揺らした。
「やれやれ……子供でも乳離れするというのに、先生離れができぬのぅ」
「悪かったな。俺にとって先生はそういう存在なんだよ……」
 賢者が胸元で軽く手を[叩{たた}]く。
「先生……か。お前さんは自分じゃ気づいていないかもしれんが、ものを教えるのが向いておるかもしれん。良い先生の教えというものは受け継がれるものじゃからな」
 俺が実践できているかはさておき、先生を褒められるのは悪い気がしない。
「はぁ?」
「照れるな照れるな。たしかアンとかいう娘が、今じゃ剣術で大人の兵士を打ち負かすようになったと聞いたぞ。あれはいったい誰の指導のたまものかのぉ」
「たまたまアンに剣術の才能があっただけさ。それに剣の腕なら俺よりすごいやつはいっぱいいるだろ?」
 教え方も[聖剣{せんせい}]を参考にしたんだ。褒めて信じる。それが上手くいっただけで、実績のない人間に褒められても普通は[嬉{うれ}]しくもないだろう。
 姿が変われば自由の代償として、英雄の威光は使えなくなる。
 賢者はますますヤレヤレと溜息まじりになった。
「偉大な聖剣とともにあったから自己評価が極端に低いんじゃろうな。一生偽りの英雄でいるのも良かろう。じゃが……」
 黙っている俺に賢者は続けた。
「聖剣は平和な世界を自分の意志で生きる、お主の姿を望むんじゃなかろうか」
 賢者のじいさんから、少しだけ先生を感じた。
「先生……みたいな言い方するんだな」
「これでも賢者じゃからな。立派な人物という点じゃ、わしも聖剣も同じということじゃよ。さあ敬え」
「ぷっ……ははは! 先生は自分から敬えなんて言わなかったぜ」
「なんじゃと⁉ つまりお主は心の中では密かにわしを尊敬していて、毎晩わしの顔を思い出して感謝の祈りを[捧{ささ}]げながら眠りについておると思っておったぞ」
「そんなわけないだろ」
「今からでも遅くはないぞ?」
 じいさんは楽しげだ。そのまま腰に手を当て猫背を反らせて賢者は胸を張り笑う。
「一人を救えたなら、その人間にとってお主は立派な英雄じゃ。世界なんて救えなくともな」
 そうか……ずっと世界に[嘘{うそ}]を[吐{つ}]いてきた俺だけど、アンにだけは本物になれたのかもしれない。
「これ、もらうぜ」
 俺は手渡された小瓶の封を開け、中身の液体を一気に飲み干した。
「おっと、ずいぶん思い切っていったのぅ。ちなみに作用が強力じゃから、立ってられなくなるぞい」
「そういうことは先に言……え……よ……」
 言葉が途切れる。じいさんの[皺{しわ}]が深く刻まれた笑顔を最後に視界が暗転する。
 全身の力が抜けて、[瞬{またた}]く間に意識は深い闇の底へと引きずり込まれた。

 次に目が覚めた時、俺は王都から近隣の農村へと向かう荷馬車の[藁山{わらやま}]に寝そべっていた。
 石畳で舗装された用水路沿いの道をガタゴトガタゴト馬車は[揺{ゆ}]れながら走る。
 身を乗り出して[水{みな}][面{も}]に視線を落とした。金髪碧眼は黒髪黒目に改められて、俺は偽りの英雄という[檻{おり}]から釈放されたようだ。
 不安と[安{あん}][堵{ど}]が半々だ。
 暖かい日射しと[爽{さわ}]やかな風を受けて荷馬車は進み、王都の城門を抜けると丘陵を行く。
 道具袋の中にはやや多めな路銀と……俺がずっと自室の机の引き出しにしまっておいた、元聖剣の柄が入っていた。賢者のじいさん以外には誰にも見せていない。アンにさえも。
 賢者のじいさんは二人目の恩人だな。
 だんだんと遠のく王都の街並みや中心にある王宮に別れを告げる。
 今日も中庭でするはずだった剣の訓練。その約束をおいてきてしまった。
 せめて手紙の一つも残しておけばよかったのに。
「ごめんなアン……いつかまた会えた時には、お前が望むもの……全部教えてやるからな」

 こうして王都から英雄の姿は消え、数年の月日が流れた――

 

  2.

 

 王都の北東に位置する海辺の町――シャーダインは漁場に恵まれた豊かな港町だ。
 総督府が置かれた王国北部の中心地でもある。
 活気に溢れ北の都とまで謳われたシャーダインだが、どうにも町の雰囲気がよろしくない。
 流れ着いて一週間。噂ほどの活況を目の当たりにすることはなかった。
 酒場では昼間からゴロツキみたいな冒険者風の連中が酒浸りになっていて、しかも連中が金を払ったのを俺は一度も見ていない。
 職を転々とし続けて、俺は今、料理人をしている。
 この[海風亭{うみかぜてい}]の[厨{ちゅう}][房{ぼう}]を切り盛りするようになってから、あっという間に行列店になったってのに、ゴロツキどもに居座られると他の客が逃げてしまう。
 チョビヒゲの店長に訊いても「あの方々はツケでいいですから」と、[怯{おび}]えた顔で俺に言うだけだ。ガラの悪い客を追いだすくらいの気概を見せてほしいものである。
「ツケってのは要は客が店にしている借金だろ? 支払日はいつなんだ?」
 チョビヒゲ店長は「えーっと……あのぅ……たしか今日だったようなそうでもないようなぁ」と、要領を得なかった。
「そうそう俺の初任給が未払いなんだが」
「ちゃんと契約時に前払いしたでしょハラタケ君」
「チッ……なんだよちゃんと金勘定はしっかりできてるじゃねぇか」
「あのねぇハラタケ君さぁ、こっちは店長なんだし、もうちょっとこう敬ってくれてもいいんじゃないかなぁ?」
「俺に尊敬してもらいたいなら、世界の一つも救ってもらわないと無理だぜ店長」
「君のリスペクトのハードルっていつも世界規模だよね」
「じゃあ一億歩譲って、店長らしくあの連中どうにかしてくれよ。さっきまで客と注文と笑顔で溢れてたのに、これじゃあ[閑{かん}][古{こ}][鳥{どり}]が鳴くぜ」
 俺はフロアを強制的に貸し切りにしているゴロツキどもに視線を向けた。
「ムリムリムリムリあの方たちの相手なんて絶対無理だから」
 店長は頭を[抱{かか}]えてしゃがみ込んだ。はぁ……[諦{あきら}]めるの早すぎだろ。
 店に[入{い}]り[浸{びた}]り自由に飲み食いするゴロツキどもは町の自警団で、シャーダイン近隣の森で見つかった『封印されし魔像』なんて物騒なものを監視しているらしい。
 魔像の監視なんて自分らで勝手にやってりゃ世話ないが、どうやったのか自警団は役人を抱き込んで、[総督{そうとく}]府のお墨付きをもらったという。
 町の人間に対する彼らの態度も、ますます大きくなる一方だ。
 俺も世界を旅していくらかは神経が図太くなったが、自警団ほどではない。
「なあ店長? 自警団なんぞいなくとも町には正規の守備隊がいるだろ?」
「冒険者の方が偉いんだからしょうがないでしょうよ」
「それ、誰が決めたんだ?」
「世の中の雰囲気がそう決めたんだよぉ。というかハラタケ君。接客業において空気は吸うモノじゃなくて読むモノなの。わかった?」
「冒険者様々ってか」
 長い長い旅の間、冒険者という職業の名を聞かない日は無かった。
 英雄によって魔王が倒されて以降、魔族との和平が成立し平和が訪れたかに見えたのだが、魔王によって凶暴化した魔物たちが時が経つにつれて統制を失い、各地で暴走し始めたのが主な原因である。
 魔王の持つ強烈なカリスマが失われたことによる弊害だ。
 暴走した魔物の[群{むれ}]によって、辺境の町や村がいくつ消えたか、両手の指では足りないほどだった。
 王立軍も要衝の防衛に手一杯で魔物の駆逐にまでは手が回らず、今や冒険者頼りである。
 名誉と栄光を求めて今や世界は大冒険者時代――冒険者は若者がなりたい職業のナンバーワンなのだとか。
「ともかくだよハラタケ君。自警団のみなさまには失礼のないように頼むからね」
「失礼な連中にどうしてこっちがへつらわなきゃならんのだ」
「君さぁ料理の腕は良いんだから、口ももう少し良くなれないかなぁ」
「…………はぁ」
 前略、先生……平和になったらなったで、世界はまだまだアレな感じです。
 腕利きの冒険者が英雄の[如「ごと}]く振る舞うご時世だが、英雄ってのは自分のためになるもんじゃないと思うんだけどな。あくまで経験者の感想です。
 だから当然、店の支払いをしなくて良いなんてこともない。
 とはいえ――
 料理人の俺の仕事はあくまで料理を作ることである。
 責任もやる気も甲斐性も頭髪もないチョビヒゲ店長の代理として、酒場の厨房で[鉄鍋{てつなべ}]を振り、スープを温め、肉を焼く。磨いた料理の腕を存分に振るって、[寂{さび}]れた店をもり立てる。[美{う}][味{ま}]い料理の[噂{うわさ}]が人を呼び、みんなが幸せになる。
 それが冒険者でも英雄でもない俺の仕事だった。
「ハラタケさんお料理のオーダー入りました! おねがいしま~す!」
 どんよりとした空気の漂う酒場で、唯一の[癒{い}]やしとも言えるウエイトレスの少女――ネーナが跳ねるように伝票を持ってくる。
 薄茶色のショートボブはどことなくボーイッシュだが、揺れるくらいには女の子らしい[膨{ふく}]らみもある少女だ。そのギャップに、彼女目当てでやってくる若い男性客も少なくない。
 快活な少女から伝票を受け取って一言返す。
「よくぞ注文を受けて無事に戻ったな勇者ネーナよ。大儀であった」
「ハラタケさんってどこかの王様かなにかなんですか?」
「まあな。料理長はビビってるだけの店長よりは偉いから」
 俺はエプロンのポケットからカードをチラリと見せる。
 と、頭を[抱{かか}]えていた店長がビクッと全身を震えさせた。厨房内でしゃがみ込まれていると邪魔なので、カウンターでグラスでも磨いててほしい。
「店長、邪魔なんで厨房から出て行ってくれないか?」
「い、言われなくても出て行きますよ! はいはい二人とも無駄口叩いてないで給料分は働いてね!」
 店長はバーカウンターの方へと引っ込んでいった。
「さてと、仕事にかかるか」
 伝票を手に無銭飲食上等な連中のオーダーをしぶしぶ確認していると、ネーナが銀のトレーを胸に押し当てるように抱いて俺に言う。
「七星級の料理人って本当にすごいんですね。ハラタケさんが来てからお客さんたちの評判が良くって、料理が三倍美味しくなったって!」
「三十倍の間違いだろ?」
「さすが王様ですね。ふふふ♪」
 俺は世界に数えるほどしかいないという、ギルド認定の最高位が七つ星――いわゆる七星級の称号持ちだ。
 ギルドが発給するライセンスカードは複製不能な[魔法水晶{マジクリスタル}]で作られており、立派な身分証代わりだ。元々は冒険者向けの証明書だったが、最近は一般職でも発給を受けられる。
 旅先で仕事を見つけるにも、カードに記載された七星級の一般職スキルを見せれば大体事足りた。
 店長は俺の肩書きだけで人物像を確認せずに雇ったのだ。自業自得である。
「まあ七星級っていってもピンキリだけどな」
 ネーナはふるふると首を左右に振って「そんなことないですよー!」と返してから続ける。
「この前のランチ用メニューで試食させてもらったトリュフ[茸{だけ}]のパスタも、すっごく美味しかったし。でもあの[茸{きのこ}]ってすっごく高いんですよね?」
 ネーナが銀のトレーで口元を隠し、俺に耳打ちするように訊く。
「森の黒ダイヤなんて言われてるからな。赤字覚悟ってやつだ」
「覚悟もなにも実際、大赤字でしたし。店長、仕入れの領収書見て、ハンカチを口にくわえて泣いてましたよ?」
「いいんだよ。美味しいからランチで出していいって、試食した上で承認したのも店長なんだから。お代わりまでしたんだし」
 ネーナが猫のように口をωにした。
「むふふ♪ 店長には高いって言ってもたかだか茸だって、わざと原価を伏せてたんですよね?」
「さーてな」
 原価率500%越えだがチョビヒゲ店長が「全部任せる」と言ったんだから、俺は自分の仕事をしたまでだ。[咎{とが}]められるいわれがあろうか? いや、ない。
「その後はランチもディナーも目が回るくらい忙しくなっちゃって、結局収支がトントンになったのも、やっぱりハラタケさんのおかげですよ!」
 少女は嬉しそうに目を細める。
「本当はもっと辛くしたいんだけどな」
「それはやめてください! ハラタケさんの辛いの基準は普通じゃないですから!」
「あれくらい普通だろ。ピリ辛程度だって。騙されたと思って……な?」
「も、もう騙されませんからわたし! 試食会が死食会になっちゃいますし」
「辛い方が美味いのになぁ」
「これからもお客さんに出す料理は辛さ控えめでお願いしますね」
 俺としては他人の金で(※ここ重要)美味い料理が作れただけで満足なんだが、出血覚悟どころか店長が出血死しかけたおかげで、海風亭の評判はあっという間にシャーダインに広まった。
 せっかく店が軌道に乗り始めたというのに、自警団がやってくるとあいつらの貸し切りだ。
「あ、そうだ! 今度、店長総選挙やりませんか? わたしもハラタケさんに一票投じますから多数決で次期店長の座はハラタケさんのものですよ」
「そうしたら店長の仕事がなくなって路頭に迷って可哀想だろう。あの人、本当にダメ人間っぽいから店がなくなったらただの人未満だし」
「あっ! それもそうですね~」
 ネーナは楽しげに笑った。
 不意に「ねーちゃん酒だ酒だ! グズグズしてねぇでとっとともってこい!」と男たちの下品で不快な笑い声が店内に響いた。
 今日も他の客たちを追い出し、中央のテーブルを占拠する自警団の連中にネーナは困り顔だ。
「これでもうちょっとあのお客様たちが他のお客様と仲良くしてくれると、最強レベルで商売繁盛なんですけどね」
 他の客が文句の一つも言おうものなら、連中は暴力をちらつかせ総督府の名前を出す。だから誰も立ち向かわない。
 [危{あや}]うきには近寄らず。この町の人間は賢いな。ここにもなんとかしようとする英雄はいないようだ。
 ネーナが「お酒は何をお持ちいたしますか?」と、訊きに戻る。
「いつものに決まってんだろ? 俺らが飲まないとでも思ってんのかよ? 気を利かせてとっとともってこいって! 他に客もいねぇんだしなぁギャハハハッ!」
 言いながら男の節くれ立った指が、ネーナの小ぶりなお尻をむんずと[掴{つか}]んだ。
「キャッ! や、やめてくださいよ!」
「女のやめろってのはもっとして欲しいってことだよなぁ?」
「ううっ……」
 大の大人がパワフルでセクシャルなハラスメントをしやがって。調理しながら厨房から声を掛ける。
「そんなんだから女の子にモテないんだぞお客さん。ブサイクで臭そうなのに性格まで発情期のお猿さんですか?」
「なんだテメェッ! ケンカ売ってんのか?」
 お尻に伸びた手をパッと離して、男が厨房を[睨{にら}]みつける。が、連れの熊のような大男が「まあ言わせておけって。ぼろっちい店だが料理だけはまともだからな」と鼻で[嗤{わら}]った。
 ネーナは下唇を噛みながらテーブルの一団にぺこりとお辞儀をすると「す、すぐにお持ちしますね」と、こちらに戻ってきた。
 彼女の背中を視線で追いかけて舌なめずりする男たち。客ならなにをしてもいいわけではない。ましてやネーナはか弱い女の子だ。
 今日の自警団連中の振るまいはさすがに目に余った。
 フロアのトラブルは店長の担当だが、いつの間にやら姿がない。どうやらトイレに引きこもってしまったようだ。責任者が現場放棄の常習犯では、こういった手合いに[舐{な}]められるのも仕方ない。
 店長に代わって[麦酒{ばくしゅ}]を準備するネーナは涙目だ。不意に俺と目が合うと、彼女は軽く目尻をこすって強がるように笑顔をみせた。
「大丈夫か? あとで俺の好物の激辛麻婆豆腐を作ってやるから元気出せよ」
 途端にネーナはハトが豆鉄砲でも食らったようなキョトンとした顔になった。
「あの、普通だったらそこはわたしの好物を作ってくれるところですよね? 同じ豆腐ならこの前、デザートメニューのお試しで作ってくれた[杏仁{あんにん}]豆腐がいいんですけど」
「なんだよ麻婆豆腐美味しいのに」
「ハラタケさんが自分用のまかないで作る料理って、どれも辛いを通り越して苦いとか痛いとか、食べる人に苦痛を負わせるじゃないですか?」
「いつか手加減なしの料理を振る舞いたいんだけどなぁ」
「わ、わたしは遠慮しておきますね! ぜひ店長にお見舞いしてあげてください」
「そりゃ残念。ところでネーナ。自警団ってのはどんな仕事をしてるんだ? セクハラ以外に本業があるのか?」
 肉を焼く鉄板を熱しつつ訊く。銀のお盆を抱くようにして彼女は小さく首を[傾{かし}]げた。
「えっと……ほら、英雄様が封印したっていう、凶暴な魔物だか魔族だかの像を監視するってやつですよ。なんだかとっても大変なお仕事って聞いてますけど、実際どうなんでしょうね? 石像があるのは森の奥だそうですし、見物に行こうにも魔物が出て危ないからって、自警団の人たちに門前払いされちゃうみたいで」
「行ったのか?」
「他のお客さんから聞いた話ですよぉ」
 普通人が集まる酒場のウェイトレスは情報通なものだ。そんな彼女ですら、自警団の仕事ぶりについて実体をよく知らないらしい。
「そうか。じゃあきっと自警団の皆さんは仕事で疲れてるんだろうな。ここは一つ元気が出るように、味付けに工夫しよう」
 俺はできあがった[鶏{とり}]の[串{くし}][焼{や}]きに特製の赤いソースをたっぷりかける。
 大陸中を巡る旅の間に見つけた、触れただけで皮膚が燃えて溶け落ちる……と、錯覚するほどの辛さを誇る唐辛子の王様『レッドデビル』をじっくりコトコト煮込んで濃縮し、ギリギリ食べられるレベルに味を[調{ととの}]えたものだ。
 名付けて[炎殺獄熱醤{デッドオアダイ}]。なにやら技名のようである。
 食べる殺意。肛門破壊兵器。手軽に味わう生き地獄。辛すぎて辛すぎて震える。命の大切さを知る調味料。唐辛死。などなど、このソースを使った料理を食べた人々には[概{おおむ}]ね好評を得て久しい。
 基本的にはどんな料理にも合うのだが、なぜかこれを使う度に店の厨房から追いだされてしまう。
 客はみなむせび泣きながら食べるし、飲み物も飛ぶように売れるのに[解{げ}]せぬ。
「完成だ。さあ、お客様におだししてくれ」
「だ、大丈夫ですかねコレ。恐ろしい色してますけど……」
 恐る恐るネーナが酒と料理を運ぶと、すぐに「この串焼きを作ったのは誰だ!」と、[強面{こわもて}]の男が声を上げた。美食家が文句をたれるような高級店ではなく、ここは大衆的な店だと断っておきたい。
 ネーナが応対する前に俺は声を上げた
「料理は俺の担当だ。皿の上のクレームはフロアの責任じゃないぜ」
 俺はフライパンを手にとった。調理器具は基本的にどれも店のものだが、このフライパン……というか、柄の部分は特別製だ。
 柄には翼のような[意{い}][匠{しょう}]の[鍔{つば}]と、その中心にくすんだ緑色の宝玉がはまっていた。この柄を改造して、さまざまなものに取り付けられるようにしたのだ。
 『テイファル』というドワーフ族の職人の技術により、大半の道具にこの取っ手を装着できる。
 取っ手部分がなくなってしまった壊れたフライパンに、この剣のような柄はぴったりだった。何よりこの柄は俺の手によく[馴{な}][染{じ}]む。
 そんな愛用の得物をひっさげ、白いエプロンの[裾{すそ}]を[翻{ひるがえ}]して[颯爽{さっそう}]と厨房から出ると、男たちの陣取るテーブルに向かう。
「当店の料理がお口に合いやがりませんでしたかお客様?」
 クマから毛をむしったような大男がテーブルの天板に[拳{こぶし}]を叩きつけた。その唇は真っ赤に[腫{は}]れ上がっていて涙目だ。額にだらだらと汗を浮かべていた。
「おいテメェ見ない顔だな。新入りか? なんだその口の利き方は」
「五日ほど前から厨房を任されているハラタケですがなにか?」
「なにか? じゃねぇよどうなってんだ! 鶏の串焼きがめちゃくちゃ辛いじゃねぇか!」
「辛くて美味いだろ? 見るからに食欲をそそる鮮やかな色の液体がかかってるんだし」
「き、昨日までこんな味付けじゃ無かっただろうが! 余計なことしやがって」
「いやだなーお客さんどう見てもサービスでしょうに。シェフの気まぐれソースってやつですよ」
「客の承諾なく勝手に気まぐれてんじゃねぇよ!」
 俺はやれやれと両肩を軽く上げ下げしてみせた。
「だいたい当店へのツケが本日支払い期限日なんだぞ。客の自覚あるなら、目ん玉[揃{そろ}]えて払ってもらおうか?」
「それを言うなら耳を揃えて……って、テメェじゃ話になんねぇよ店長出せ店長」
「店長は死にました。遺言でツケの支払日は確認済みだ。さあ、金を出せ。しばくぞ」
 俺はフライパンを手の中でバトンのようにクルリと回してみせた。曲芸師がジャグリングするような手さばきに、自警団の男たちの視線が集まる。
「ほざくな。だいたいなんだそのふざけたフライパンは? ご大層にまるで剣みたいな取っ手じゃねぇか。そいつでオレらとやりあおうってのか?」
 男の視線が一瞬、自身の腰に帯びた三級品のアイアンソードに落ちる。
「やりあうというか一方的にこのフライパンの柄をお前のケツの穴にプラグインしてやるよ」
「え? 冗談だよな?」
「これが冗談を言っている人間の顔に見えるか? 俺だって本当は嫌だよ。愛用の道具を汚らしいおっさんの汚らしい穴にねじ込むのなんて」
 とっさに男が後ろでに尻を守るようにした。俺はフライパンを突きつける。
「さあツケを払うかケツでケジメをつけるか選べ」
「りょ、料理がちいっとばかり美味いからって客に対してなんだその態度は⁉」
「まあ俺は七星級だからな」
 左手でエプロンのポケットから魔法水晶製のライセンスカードを見せる。
 男の目が点になった。
「七星級っていやぁ最高位じゃねぇか。どうりで美味すぎるわけだ……」
「だろう? もっと食いたくなったか? 俺のレッドデビル料理のレパートリーは108つあるぜ」
「う、うるせぇ! いちいちむかつく野郎だ。だいたい七星級のコックが、こんなクソマズ激辛殺人料理を出しておいて、お客様から金をふんだくろうってのかよぉ⁉ なにがツケの支払期限だふざけんじゃねぇ!」
「まだ死んでないんだから、殺人未遂料理とか汗腺に致命的な後遺症が残る料理とか、舌を強く打って味覚不明の重体料理とか、物事は正確に伝えなきゃだめだぞ」
「あっさり死なないならそれはそれで余計に悪いわッ⁉」
 クマ男がテーブルの天板を拳で叩き、皿が踊りジョッキが波打って麦酒がこぼれた。
 おお、なんと勇ましいことよ。弱者が相手ならいくらでも強くなれるといわんばかりだ。
「自警団ってのは役人に尻尾を振るのだけ上手くて、本当にろくでもないんだな。叩かれた机が気の毒でならんな」
「知っててケンカ売ったってのかああぁん? オレらのバックにゃ総督府がついてんだぜ? つまりオレらは王国から公認された冒険者なんだよ! たかが料理人[風{ふ}][情{ぜい}]が逆らおうってのか?」
 男は右手首につけた腕輪を見せつける。そこには小ぶりなマッシュールームくらいの大きさの[水晶玉{ゴウプロン}]がはまっていた。
 これもライセンスカードと同じく、冒険者ギルドが発給するものだ。
「この町で自警団に逆らって生きていけると思うなよ」
 一般人が職歴や階級の証明になるライセンスカードを持つことはあるのだが、こちらの水晶玉はライセンスカードと合わせて冒険者の証である。冒険者の特定の組織やチームに参加していれば、文様が浮かび上がるようになっていた。自警団のそれは盾をモチーフにしたものだ。
 鼻息荒くふんぞり返る自警団の男に俺は返す。
「国の後ろ盾が怖くて激うま激辛料理が作れるかッ!」
「開き直ってんじゃねぇ! いいかよく聞けよ。オレらは消えた英雄の代わりに町を守ってんだぞ? テメェみたいな一般人が平和に暮らしていけんのも、いざというとき戦うオレらがいるからだろうが! にーちゃんそこんとこ勘違いしちゃいねぇか?」
 英雄……か……。
 自然と口から溜息が漏れる。こんな連中をイキらせるために、先生は魂を賭けて平和を取り戻したんじゃない。
「勘違いしてんのはあんたの方だぞ」
「はぇ? そろそろ切れちまいそうだぜ。なあ、[詫{わ}]び入れるならこれが最後のチャンスだ」
 [猪{イノシシ}]のように鼻息の荒い大男は、今にも[殴{なぐ}]りかかってきそうな勢いである。
 こいつがぶん殴ってきたところを正当防衛と称して撃退し、俺は責任を問われて店を追われる。ありふれたいつもの失業パターンだった。
 かつて英雄だった頃、馬車を襲う盗賊たちを[懲{こ}]らしめた時の先生とのやりとりが自然と思い出される。
 人間を相手に力を使ったのはあの時が初めてだった。

「先生、困っている誰かを守るための力なら、振るってもいいよな?」
「うむ。他者への思いやりと常識が足りない手合いには、お仕置きが必要だな……少年ッ‼」

 ああ、先生はもういないんだ……それに、もう少年なんて呼んじゃもらえない年齢か。手にしたフライパンの柄をぎゅっと握り締める。
 ネーナが「よ、よしてください! ハラタケさんも悪気があってやったんじゃないんです!」と、仲裁に入った。
 そんなネーナを男たちの一人が羽交い締めにする。ぞろぞろと席から立つ男たちに俺は告げた。
「お帰りですか? ネーナを離して今日までのツケも払って二度とご来店するなよ」
「立場がわかってねぇなぁ兄ちゃんよぉ」
 ネーナが悲鳴のような声を上げた。
「ハラタケさん! あ、謝ってください! わ、私も一緒に謝りますから! お[酌{しゃく}]もします! だから……ううっ」
「おぉう! そいつぁいいな! 他にもサービスしてくれるんだろぅ?」
 俺は怯えるネーナをじっと見つめる。
「安心しろ。手出しはさせないから」
「ハラタケ……さん?」
「というわけで全員表に出ろ。まさか五対一で逃げたりしないよな?」
 クマ男が手を包むように組んで、節くれ立った芋虫のような指の関節をポキポキとならしてみせた。
「口だけは達者じゃねぇか。いいぜ、お望み通り料理してやるよゴキブリ野郎」
「誰が黒髪サラサラのイケメン八頭身だとコノヤロウ」
「はぁ⁉ んなこと言ってねぇよ! つーか八頭身もねぇだろ」
「お前みたいな顔デカ四捨五入三頭身と並ぶと、それくらいになるんだよ。足長くてすまんな」
「こ、ころ、殺すぞてめぇ! ぶち殺してやるからなッ‼」
 ネーナは未だに後ろ手に拘束されたままだ。
 さて、どうにかネーナだけは解放させなきゃならない。最初に狙うのはか弱い少女を羽交い締めにしている男から。あとは流れで。
 と、思った矢先――
「話は聞かせてもらった。その少女から手を離せゲスどもッ!」
 [凛{りん}]とした勇ましくも美しい声が店内に響き渡った。
 長い銀髪を揺らし歩み寄ってきたのは、美しい顔立ちをした剣士風の少女だった。磨き込まれた銀の[軽鎧{けいがい}]姿には高貴さが感じられ、並の冒険者にはない気品さえも漂う。
 動きやすさと防御力のバランスを考えて……というよりは、単に苦しいからだろうか胸のあたりは大きく開いていた。寄せてあげられることでより大きさを増した[水蜜桃{すいみつとう}]の谷間に、つい視線を誘導される。
 おっと、いかんいかん。というか何者だ?
 剣士らしい身なりだが、ややもすれば剣を振り回すのに少々大きすぎるおっぱいの持ち主だった。
 今にも乱闘騒ぎになりそうな店内で、少女は堂々と胸を張り続けた。
「んだテメェは⁉ この時間は自警団の貸し切りだってのを知らねぇのか?」
 クマ男が野太い声で[吼{ほ}]えると、赤い瞳でキッと睨み返して少女は断言した。
「私が外で聞き耳を立てていたように、貸し切りなら店の前に看板でも立てておくのだな」
 いやいや、なんか「言ってやった」みたいなドヤ顔だけど、全然上手くないからな。
 乱入少女はぐるりと店内を見渡した。そして自警団を[一瞥{いちべつ}]して告げる。
「冒険者が町の人々に手を上げるとはどういう了見か?」
「俺らはただの冒険者じゃねぇ。この町を守る自警団だ」
「町の警備なら王立軍がいるであろう」
「連中にゃできねぇ仕事をしてんだよ」
「そうであったとして、どうして町の人間に手を上げている?」
 少女の言葉に男たちは返す言葉を失った。
 いいぞもっとやれ。
「女がしゃしゃり出てくんじゃねぇよ!」
 クマ男が吼えると少女はフッと笑い胸を張った。
「ただの女ではない。私は女騎士だ。私より正々堂々としたやつに会いに行く。騎士道世界一への挑戦者。それがこの銀翼の聖騎士アンジェリカだ」
 堂々と胸を張るのはご立派だが、騎士道は世界ランキングで競うものではない。
 まあ俺が知らないだけかもしれないが、騎士界隈では有名なのだろうか。ネーナが吼える。
「お客様! お飲み物は何にいたしますか⁉ ご一緒にポテトもいかがですか?」
 おいおいお前もウエイトレス根性が据わっているな。女騎士アンジェリカはネーナをビシッと指さした。
「この[狼藉者{ろうぜきもの}]を片付けた後にキンキンに冷えた牛にゅ……いや、発泡ワインの白をいただこう。それとエマダツィだ」
 クマ男が首を傾げた。
「はぁ? なんだそのヘンテコな名前は? 食い物なのか?」
「エマダツィを知らぬとは……笑止」
 羽交い締めにされたままのネーナが俺に「そんなメニューないですよ?」と、心配顔だ。
「エマダツィなら作れるぜ」
 山岳高地にあるフルタン国に伝わる、生唐辛子とチーズを使った煮込みである。王国ではマイナーな料理なのだが、知っているとはこの少女……できる。
 女騎士と視線がぴたりと合う。
 エプロンにフライパンとくれば俺の職業は誰の目にも一目瞭然だ。
「貴様……ただの料理人ではないな」
「ふっふっふ……」
「アレンジとして[炎殺獄熱醤{デッドオアダイ}]もたっぷり振りかけてやろう。サービスだ」
 女騎士は自警団の男たちを指さした。
「では改めて、私の先ほどの質問に納得のいく返答をしてもらおうではないか? おっと黒髪の料理人よ。ここは私に任せて下がっているがいい」
「誰がキューティクル[艶々{つやつや}]系美男子料理人だって?」
「髪の美しさならば私も負けぬぞ。キューティーキューティクルナイトとは私のことだ」
「このタイミングで張り合う意味ないだろ。むしろお前がツッコめよ」
「ツッコミ? ふ、ふざけているのか私は真剣に言っているのだぞ」
「というか女騎士のお客様よ。店内で暴れられても困るし、あんまり連中を刺激しないでくれ。従業員が捕らわれているんだ」
 俺一人ならネーナを救うのも簡単だったが、女騎士にへたに動かれると困りものだ。
「なに⁉ ま、まさか人質を取られているのか?」
「まさかじゃねぇよ。お前さんの目は節穴ですか?」
「失礼な。この正義に燃える真っ赤な瞳のどこが節穴だというのか⁉」
「燃えていようがきちんと状況把握できてなきゃ同じだろうに」
 アンジェリカはネーナを取り押さえたゴロツキを指さした。
「女を人質に取らねばケンカもできない臆病者が、人々を守る自警団とは恐れ入ったな!」
 人質を取られていたことに気づいていなかったお前も大概だぞ。
「な、なんだとクソアマぁ!」
 アンジェリカ……長いのでアンジェでいいか。アンジェの挑発に手が緩んだのか、ネーナが逃げ出して俺の下に駆けてくる。
「ハラタケさん怖かったよぉ……」
「よしよし。もう飛び込み体当たり的な接客は控えるんだぞ」
「だ、だけど放っておいたらハラタケさんが乱暴されちゃうって思って、いてもたってもいられなかったんです」
「心配してくれたんだな。ありがとうな。後の事は任せてくれ」
 震えるネーナの背中を軽くさすって落ち着かせる。
 と、なぜか女騎士が文句でも言いたげに、じっと俺を睨みつけてきた。
「…………」
 なんなんだこいつは。
「女騎士のお客様よ。俺になにか?」
「そうやって弱っている少女につけいるというのか貴様はッ!」
 さてと、自警団連中は五人で対する女騎士は一人。多勢に無勢もいいところだ。
 俺は軽くフライパンを振るう。
「それではお客様方、まとめて表に出やがっていただけますか?」
 女騎士がフンッ! と、鼻を鳴らして俺を睨みつけた。敵意を浴びせる相手、間違ってますよ?
「いいだろう。五人も六人も変わらぬ。まとめて相手をしてやろう」
「なんで俺まで自警団側に含めるんだ?」
「貴様は今、怯える少女の心の隙をつくように背中を触ったではないか?」
「いやいやこれはだな……ええと、スキンシップだ!」
「イケメンに限らずとも同意無き行為は許せぬ。セクハラを見逃すほど、私の目は節穴ではないぞ」
 面倒臭いなこいつ。
 返す言葉に悩んでいると、すぐさまネーナが「ハラタケさんはおさわりOKです!」とアンジェに告げた。
「ふむ。ならば良し」
「同意さえあれば良いのかよ!」
「無論だ! 騎士に二言はない! さあ触れ触れ! おっと、いかに私が魅力的でも、私へのおさわりは許さぬがな!」
「触らないから安心しろ」
「臆したか?」
「面倒臭いだけだ。で、こんな話をしてる場合じゃないだろ?」
「おっと、そうであった。全員まとめて成敗してくれるので、外に出るが良い」
 ――ともあれ。
 ごろつきどもを引き連れたアンジェを先頭に、海風亭の軒先に出る。騒ぎに気づいた町の住人たちがすぐに集まってきた。
 男たちと[対{たい}][峙{じ}]すると、アンジェが一歩前に出て俺を背に[庇{かば}]う。
「怪我をしては料理の腕も振るえまい。この場は私に任せておくのだ一般人よ」
「最初に連中にケンカを売ったのは俺なんだぜ? それに相手は五人もいるし」
 自警団のクマ男が「やっぱテメェケンカ売ってたんじゃねぇか!」と改めて吼える。
「当然だろ。お前らみたいな客に食わせる料理は……そうだな、ドーナツの穴だったらいくらでもご[馳{ち}][走{そう}]してやるぜ?」
「空洞じゃねぇか! ふざけやがって! まずはテメェから血祭りにあげてやらぁ!」
 すぐさまアンジェが前に出た。
「料理人の仕事は料理を作ること。騎士の役目は弱き人の盾となり剣となることだ。私が相手になろう!」
 ん? まあ言ってることはご立派だが、ちょっと気になるな。
「騎士っていうのは町の住人より主君に忠義を尽くすもんだろ?」
 俺の素朴な疑問にアンジェは振り返ると、耳まで赤くなった。
「き、貴様ぁ! なぜ私に主君がいないと知っている⁉」
「え? いないのか主君? それ騎士じゃなくね?」
「ぐぬぬぬぬぬうううう! [辱{はずかし}]めるつもりか? [市{し}][井{せい}]の衆目を前に私が自由契約であることを晒すつもりか」
「自由契約って言い方してるけど、つまり無職だろ。それとも趣味で騎士をしてるのか?」
「無職でもボランティアでもない! 騎士だ! 私は騎士なのだ! いま、たまたま主君を切らせているのだ」
 調味料でもあるまいに。赤い瞳を充血させて少女は涙目だ。

 

 

女騎士さんは転職したい

内容

魔王を倒した英雄ながらもその名に重荷を感じ、姿を変えて転職を繰り返してスキルをマスターしまくった青年ハラタケ(現在は凄腕料理人)。彼の平穏な日々は、ある少女との〝再会〟で一変する。そのお相手とは……剣以外はまるでポンコツ、妄想癖のある女騎士さんだった!
「いっそ、このまま貴様だけの専業騎士に……いや、専業主婦になるのも悪くない。ど、どどどうだろうか?」
「却下で」
修行の旅と称して、幼い頃の剣の師匠で憧れの「英雄さん」と結婚するため捜して旅する女騎士アンジェリカ(でも再会しても気づいていない)。そんな不器用すぎる彼女と再会し、こっそりと導く〝元〟英雄のハラタケだったが、アンジェリカとの冒険により彼にも転機が訪れ……。
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